日記

日本における恋愛・転職がうまくいかない人が多い理由

1.問題提起

1990年代の日本の失業率上昇の原因の一つに、労働市場におけるマッチング効率の低下があると指摘されている。こうした指摘を背景に、マッチン グ効率の技術的な改善を目指し職業紹介の民間開放やIT導入などによる効率化が図られてきたものの、現在のところ効果は限定的である。

本稿の目的は、日本の労働市場でのミスマッチの源泉がどこにあるのかを実証的に探ることにある。一般に、労働市場におけるマッチングの効率性は情 報伝達速度などの外的な技術条件によってのみ決定されると考えられがちであるが、ほかにも、個々の市場参加者の相互依存関係から決定されるとする「内生的 マッチング関数」という有力な議論がある。本稿では、この議論を援用して、市場参加者の相互依存関係が日本の労働市場でのマッチングにどの程度影響を及ぼ しているかを実証的に確認する。

本稿で提示賃金と求人規模の関係に特に着目する理由は、両者が企業の求人時における重要な求人条件であり、これらが個々の求職者求人者の行動に影 響し、上述の相互依存関係を形成する本質的な要因と考えられるためである。内生的マッチング関数の理論が予測するように、提示賃金と求人規模の間に負の関 係が存在するか否かを検証することによって、労働市場の摩擦の源泉がこうした相互依存関係に起因するものかどうかを検討することの一助となるものと考えら れる。

2.手法

具体的には、上述の「内生的マッチング関数」の議論から、「求人側が採用時に提示する「賃金水準」と「募集人数(求人数)」との間に負の関係が生 じる」という実証命題が導出されることを用いて、この負の関係が実際に成立しているか否かを、厚生労働省「雇用動向調査」1993-1995年の事業所パ ネルデータにより検証する。

上述の事業所パネルデータからは、事業所ごとの求人数が入職者数実績と期末未充足求人数の合計として事後的に計測できる。この求人数を説明変数と し、提示賃金水準を被説明変数とする実証モデルを構築する。この際、入職者の個人属性および事業所の個別効果をコントロールすることにより、同一タイプの 事業所が同一タイプの求職者に対し提示した提示賃金と求人規模に統計的に負の関係を見出せるかを検討する。ただし、実際には被説明変数である提示賃金水準 は観察できず、前職賃金との比較結果である「賃金変化率」しか利用可能ではない。それゆえ、賃金変化率を前職賃金水準と現職賃金水準に分解し、両者をミン サー型賃金関数で近似するなど想定を追加した。これらの推論の結果、以下の推定式の求人数の係数符号がマイナスになる場合、求人数と提示賃金の負の相関関 係を確認できることが導かれる。このとき、背後に求人・求職者の相互依存関係がサーチ行動の前提として成立していることが示唆され、摩擦として現実に観察 されたものと解釈することとする。

3.結果

フルタイム入職者の全サンプルを用いた推計の結果、(1)式の説明変数のうち、入職者属性などの推定結果は予想通りとなるが、関心のある変数であ る求人数の係数は有意ではない。事業所の個別効果を導入したり事業所属性を様々に変化させ、各事業所が直面する需要ショックの差異をコントロールしたが、 推計結果全般を通じて求人数の係数は有意な正値をとる。このことは、労働市場を全体的に俯瞰した場合、求人者・求職者の相互依存関係はあまり重要ではない ことを示唆している。

次に、求職者は職種別に求人を識別して求職活動を行うと考え、(1)式を職種別サンプルに分けて推定を行う。その結果、推定結果は概して安定的で はないものの、全サンプルを用いた場合と異なり、問題となる求人数の係数は、事務職や販売職で有意に負になる一方、技術職や管理職では有意な結果が得られ なかった。したがって、仮に労働市場が職種別に分かれていると仮定した場合、前者のように比較的熟練を要さない職種では求人・求職者間の相互依存関係が マッチングに影響を及ぼしうる一方、後者のように比較的熟練を要する職種については、マッチングはよりランダムに行われているか、もしくは完全に調整され た形をとるかのいずれかである可能性が指摘できる。

なお、(1)の推定に際しては求人数の内生性の問題や、サンプルが転職入職者に限定されることによるセレクションバイアス発生の可能性など、推定 上いくつかの問題点が指摘できるものの、変数の組み合わせやサンプルの限定などにより様々な推定パターンを試みた結果、求人数の係数は負値に有意に推定さ れることはなく、理論が想定するように求人求職者双方の相互依存関係による摩擦が、日本の労働市場でどれだけ重要か、疑問を呈する結果が得られた。

4.終わりに

以上の推定結果から、日本の労働市場全体における求職者や求人者の相互依存関係から生じる摩擦の重要性は過大評価されるべきでないことが示唆され た。他方、職種別推定結果によれば、比較的熟練を要しない職種ほど上述の相互依存関係に基づく摩擦の存在が伺われ、こうした職種での相互依存関係のコント ロールは重要な課題となる。とりわけ、IT化が推進されたハローワークは、比較的熟練を要しない職種が主力であり、技術的な改善をしても相互依存関係から マッチングの効率化に結びつかない可能性がある。この場合、技術的な情報伝達スピードよりも、求職・求人間の駆け引きをいかにコントロールするか、コー ディネーション機能を強化するかといった方向が有用かもしれない。具体的には、公共職業紹介機関などのコーディネーターが求職者同士、求人者同士の駆け引 きをコントロールし、自らに登録された求人の一部に過度に求職者が集中することで応募率格差が生じないよう、市場においていかに調整の役割を果たせるかを 考える必要があろう。